いわしはだいだい昼寝をしている

まとまりもとりとめもない脳内爆発日記

盗塁についての論文をまとめてみた

はじめに

盗塁の価値ついてもバント同様に度々議論になる。

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「盗塁は意味ある」だとか「ない」だとか、「相手によるから一般的な議論をしてもしょうがない」だとか、意見は色々あるが、ある種のイデオロギーの対立のような形で議論していても埒が明かない。ここは先人たちの知恵を参照し、現時点で盗塁についてどこまでわかっているのか、その輪郭だけまとめてみよう。目標は不毛な議論よサヨウナラ。ちょっともう硬く書くのに疲れたので、今日は柔らかめに。

僕らが知らないだけで、得てして大体のことは調べ尽くされている。今回も(無料で手に入る)論文を紹介し、盗塁の輪郭をより鮮明にしていきたい。例えば、平野 et al (1991)は野球を「状態推移確率及び 、各塁状態において最適の戦略をとり相手チームに勝つという事」と捉えつつも、心理的な側面を無視することなく研究し、盗塁のシミレーションモデルを作成した。古くは日本国総理大臣を務めた鳩山もバントや盗塁の価値についてシミレーションモデルを作成し、研究している(鳩山 1979)。以降ではいくつかの研究を紹介する。

いつ盗塁するべきか? 

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詳細は各自表より、理解していただくことにする。鳩山(1979)は自身で求めた盗塁に必要な最低盗塁成功率により、以下のような提言をした。

走者一塁のケースでは,無死では.75 の成功率を要求され、これを満たす俊足走者はさほど多くない.福本(急) ,河埜(巨),松本(巨)の 割組と,阪本(近) ,島野(神) ,柴田(巨)らがこれに該当する.無死では無理だが一死なら
許される組は,大下(広) ,高木(中),高田(臣),有藤(ロ) ,飯塚(ロ),弘田(ロ)らであり,二死一墨なら許される選手は,衣笠(広) ,中塚(大) ,山
本(広) ,小川 (近) ,基(ク)など年間 5-10個盗塁する選手はほとんどここに属すると思われる.ただ,現在までのところ,高橋(広) ,掛布(神),ヒルトン(ヤ)は5割台で,得点力増大のためには走るなという結果が出ているのが面白い.

要するに場面ごとによって、許容される失敗率は変わるので、それに応じた作戦立案が必要になるということだ。セイバーメトリクスを盾に、バントや盗塁を無価値だと叫ぶ人が多いが、彼らは得てしてこれを忘れている。平均的には無価値かもしれないが、個別具体的には価値があり戦略的妥当性がある場合もある。鍋谷(2007)は2項ロジットモデルを用いて、盗塁の勝利への貢献度合いを推定したが、統計的有意な結果が得られなかったと述べている。鍋谷(2007)の分析では、アウトカウントやランナーの能力などを考慮していないので、いわばこの結論は当然であろう。そして忘れてはいけないのだが、これは盗塁が無価値であることを示す理由にはなり得ない

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異なるアプローチとして、岡田(2011)は例えば以下のような形で盗塁の損益分岐点を求めた。

① アウトカウント・走者状況から盗塁(盗塁死)前の得点期待値を求める
② 盗塁(盗塁死)後のアウトカウント・走者状況から得点期待値を求める
③ ②から①を引くことでその状況での盗塁(盗塁死)の得点価値を求める
④ 求められた状況毎の盗塁(盗塁死)価値に各選手の実際の盗塁(盗塁死)数を掛け合わせる
⑤ ④で求められた状況毎の盗塁(盗塁死)の価値を足す

その結果、「1つの盗塁は0.16程度の得点上昇をもたらし、盗塁死はおおよそ-0.31得点を減らす」と結論づけた。つまり盗塁は2回成功で1回失敗するペースなら辛うじて損益プラスになるということである。これは概ね、鳩山(1979)の結果を支持するものだ。ここまで読んだ方で、なんj文化に詳しい人にはピンときたかも知れませんが、このセイバーメトリクス的な視点で求められた結論は、赤星式盗塁数(=盗塁-盗塁死×2)に非常に近いものである。つまり我々のような1ファンが盗塁についてあれこれいうのであれば、赤星式盗塁は都合の良い指標であろう。

まとめ

盗塁の平均的な損益分岐点は赤星式盗塁数が0以上になるとき。またプロ野球の球団も無策ではないので、岡田(2011)によると、実際には「盗塁と盗塁死の収支はやや盗塁の効能を上手く引き出している球団が多く、プロの球団が状況(打者が打てないなどの状況など)を理解しながら盗塁という作戦を用いている」

実際には、各ランナーの走力やカウントなどの試合の状況が組み合わさっているので、もっと複雑だが、野球をファンとして楽しむ分には、赤星式盗塁数をある種の目安にしておけば良いのではないでしょうか。

 

本文とは全く関係ないが、鳩山(1979)の以下の文句が胸に刺さった。

しかしながら,あまりに精巧なモデルを作ると,野球の面白さが減少する恐れがあるので注意されたい.

おしまい。