いわしはだいだい昼寝をしている

まとまりもとりとめもない脳内爆発日記

バントの有効性について先行研究をまとめてみた

はじめに

バントの戦略的/戦術的有効性については、ついったらんどでも頻繁に議論されている。根拠に基づく建設的な議論が見られる一方で、”セイバーメトリクス”の名の下に論拠薄弱、または結論を急ぎ誤解を招くような議論も散見されるのが実情だ。実際のところ、バントの戦略的有効性やその意義について、どのように研究され、議論されているのだろうか。これをある程度(緩やかな形で)明らかにするのが拙稿の目的だ。尚、本論は学術的な用途のために構成されたものではないことにあらかじめ触れておく。また筆者は日本語が下手くそなことで一部界隈では有名であることをはじめにご承知いただきたい。

研究目的

拙稿の研究目的は、近年の学術的な「バント」研究を概観し、バントの戦略的意義や価値を定量的に示すことだ。それに付随して、あまり日の目を見てこなかった野球研究の成果を、神聖なるついったらんどの皆様とシェアし、野球をさらに楽しむことができたら筆者冥利に尽きる。及川 et al (2016, p119)で指摘されているように、「高校野球の甲子園大会では無死 1 塁のケースの68.9%で送りバントが行われているし、アテネ五輪の日本代表チームも無死 1 塁のケース17回中11回(走者 2 塁も合わせると29回中19回)」も行われ、その戦略は広く認知されている。しかし、一部界隈では送りバントと聞くとアレルギー反応が起こったかのごとく、批判的な発言をする者がいるのも事実であり、拙稿ではそれへの一定程度の解答を与えたい。

研究方法

先行研究のリテラチャーレビューを行った。その際に参照した研究は、筆者の独断と偏見である。異議がある方はご自分で研究してください。

バントの価値

バントの価値を求める際には、当然データが必要になり、そしてそれを分析する方法が必要になる。要するに何らかの統計的な分析を経てバントの価値が算出される。その手法は多岐に渡り、例えば佐藤 et al (2016)では、ポアソン回帰分析行い、他の予期される戦術と比較し、バントの価値の算出をしている。拙稿では、以降紹介する論文で採択された統計手法とそのサンプル数などについては触れないこととする。何故ならば、多くの読者はそれを求めていないだろうし、何より筆者がめんどくさいからだ。巻末に出典を明記するので、各自参照されたし。自明ではあるが、高校野球とプロ野球のプレーの質や環境は大きく異なるので、拙稿ではこの2つは別に検討することとする。

バントの有効性: 高校野球の場合

佐藤 et al (2016)は高校野球における無死1塁の場面で取られうる作戦 - 例えば盗塁やエンドラン、そして拙稿の主題であるバント - を比較検討し、戦術としての送りバントは、ランナーを進塁させるには有効であるものの、獲得得点を他の作戦に比べて増大させる効果はないと結論づけた。一点注意しなければならないのは、当該論文においては、バントは他の作戦に比べて獲得得点を下げるとは結論づけられていないことだ。要するに、佐藤 et al (2016)がデータを分析した範囲では、バントの有効性は確認できなかったものの、それを戦略的有効性がないと言い切れるレベルではないということだ。

バントの有効性: プロ野球の場合

佐藤 et al (2016)による高校野球の研究と同じ、無死1塁でのバント研究はプロ野球をテーマにしても行われている。及川 et al (2016)は2006年のプロ野球のデータを元にNPBにおけるバントの意義を、無死1塁で採択され得る他の戦略と比較することにより求めた。

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表から理解できるように、NPBにおいては、無死1塁での送りバントは、もっとも高い進塁率を達成させるものの、結果としてイニング総得点をもっとも低くする作戦のようだ。同様の結果は他の分析者によっても求められている。例えば、岡田 et al (2018, p.9)によると送りバントの平均的な得点価値は-0.119である。要するに、バントを一回するあたり約-0.1点を失っているということである。

あくまでも上記の分析は、平均的な話であり個別具体的な事象の説明にはならない。及川 et al (2016)はそれを理解し、一般的には小技に長ける二番打者に絞り分析行った。おそらく及川 et al (2016)は「バッターのタイプによってはバントは有効な作戦になり得る」という批判や指摘を予期していたのだろう。

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及川 et al (2016)のデータによると、「二番打者ならバントには戦略的意義がある」という言説は支持されないようだ。

ここまでの内容を大まかに整理すると、高校野球においては送りバントの有効性は確認されていなく、またプロ野球においては、塁上走者の進塁率をもっとも高める効果はあるものの、獲得得点をあげる根拠はなく、むしろ期待得点を下げる可能性が非常に高いということになる。

バントの有効性: シミレーションを通して

BBANALY プロ野球データ分析氏(2018) はプロ野球シミレーションプログラムを独自に開発し、バントがヒッティングよりも得点期待値を上げる場面を確認した。氏が認めているように、シミレーションプログラムにいくつかの欠点があるものの、バントに得点期待値を上げるような戦略的特性を認めることが難しいと結論づけている。これは実データを用いて行った研究結果を支持するものである。また、中尾(2008)も異なるシミレーションではあるものの、シミレーションを通してバントの有効性について疑問を呈している。

まとめ

ここまでバントの有効性についての議論のいくつかを参照してきたが、全てがバントの有効性について否定的、もしくは態度保留であり、ポジティブな結果は見当たらなかった。一方、プロ野球の実際の現場では、バントは「勝敗を分ける重要な技術」(川相 2007)と理解されているようだ。統計分析やシミレーションはあくまで平均的な話であり、個別具体的な状況について絶対的な説明力を持つものではない。よってバントの持つ意義について、絶対的な批判をするのは早計だろう。

「一塁に走者が出れば必ずバントすることが定石であるように考えているのは,余りに自縄自縛の戦法」と腰本(1931)が述べているように、ある種のイデオロギー対決のような形ではなく、フラットな形でバントの意義について再考すべき時なのかもしれない。

文献

岡田友輔 et al. (2018). プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート2. 水曜社: 東京.

川相昌弘.(2007).バントの理論と戦術 part2. Baseball Clinic,18 (7) : 27-30

佐藤優樹 et al. (2018). 高校野球での無死 1 塁における作戦の有効性. [online] Available at: http://user.keio.ac.jp/~nagakura/mitaronsotsuron/mitaron2016a.pdf [Accessed 29 Nov. 2018].

中尾泰士.(2008)確率過程としての野球分析:「送りバント」
は有効な戦術か.奈良産業大学紀要,24:79-89

安井俊人. (2014). "日本プロ野球における送りバント戦術の効果について: 短期決戦を事例として." PhD diss., びわこ成蹊スポーツ大学. [online] Available at: http://jcoachings.jp/jcoachings2012/wp-content/uploads/2016/03/a55af3f67100d72b362103e41eacc36a.pdf?fbclid=IwAR0ZbORhzoTXEtoR22TMz7Y6wfh-HdhtepnWWv6CoyuwwQzmDtg-D15jgxc [Accessed 29 Nov. 2018].

BBANALY プロ野球データ分析. (2018). SB打線にバントは必要か - BBANALY プロ野球データ分析. [online] Available at: https://hihrois-1104o.hatenablog.com/entry/bant-sb [Accessed 29 Nov. 2018].