勝負強い野手は本当にいるのか?:デルタ・ベースボール・リポート2 読了記
予約までして買った「デルタ・ベースボール・リポート2 」を一気に読み終えた.まだ流し読みの域を超えていないが,野球ファンや僕のフォロワーの方々はこの本のテーマ,つまり「プロ野球を統計学と客観分析で考える」ことには非常に興味があると思うので,内容に紹介とレビューをしたい.
大まかなレビュー
・全体としては面白い
本の最初は典型的なセイバーメトリクスの用語解説(例えば得点期待値など)を丁寧にグラフやイラストとともに説明していて理解しやすい.野球を感覚だけでなく,もう一歩離れて理解したい人にはうってつけ.Twitterで散々話題に上がっている議題がある程度納得できる形で答え(視点)が提供されている場合もあり,野球という競技についてより深く理解する一条になり得る.
・(個人的には)2部のレポートは当たり外れが激しい
そもそもなぜこのレポートが論文調で書かれているのか僕にはよくわからないが,あくまで個人的な感想になるが,とても面白く説得力があり理解しやすいレポートから「それ,あんさんの個人的な思い込みやないの?ファクトとかエビデンスあるの?」といったものまで玉石混淆である.後に僕の目に留まったものを軽くまとめて紹介したい.
余談であるが,「この分析ならTwitterの(ある意味)インフルエンサーの方々の方が面白いんちゃうか?」と個人的に思うこともしばしばあったので,何人か紹介させていただきます.鍵垢は除外しています.抜け漏れありまくりなのでご勘弁ください.
有希っこさん
aozoraさん
(ちょっと自分も載せていいですか?)
らすさん
unknownさん
酔いどれさん
Miggy信者さん
SSSさん
お股ニキさん
ばーぼんさん
・レポートの粒度が統一されていない
まだ書き手や分析する人が多くないので仕方がないのかも知れないが,ある分析は「NPB打者」を対象にしていたり ある分析は「MLBの....」だったり,「ソフトバンクのモイネロとスアレス」だけを分析した論考があったり,「ストレート」のみがテーマの論文があったりする.編集の問題だが,もう少し分析の対象や粒度を整えたほうが体系的に野球知識をまとめることになるし,読者の理解を助けることになるでしょう.またレポートの著者たちの統計知識もまちまちのようであるし.この本が「セイバーメトリクス」と言っているのにほとんどセイバー系の指標が出てこない論考もあり,読了後は不思議な気分になることもある.
以下では頭に引っかかったいくつかの論考のテーマとその発見について軽くまとめます.「面白い」とちょっとでも思ったら積極的に本を買いましょう.そうすることでより野球のデータ分析は発達していくと思います.
勝負強さの研究
勝負強さなんてものは存在しないし,あるとしても無視できる程度のものである.この議論はなんだかツイッターでよく見ますね.「流れ」とか.
コースに逆らわない打撃は本当に有効なのか
- 流し打ちはアウトコースではいい結果に繋がりやすく,インコースではいい結果に繋がりにくい
- 引っ張りはインコースでいい結果に繋がりやすく,真ん中のコースでも良い結果に繋がりやすく,アウトコースでもゾーンならいい結果に繋がりにくいとも言えない
- 右打者は左打者と比べて引っ張った方がいい結果になりやすい
進塁打に価値はあるのか
ゴロを狙って打つ行為は無駄.あくまでも非常手段.アウトはほぼ確約.相手がラッキーならゲッツーにもなり得る.
トラックマン(Trackman)を活用したストレート変化量の研究
- ストレートは落下しながらシュートする球
- 伸びるストレートは失点リスクが低い
- 沈むストレートは失点リスクが高い
- ストレートは高めに外れる方が低めに外れるよりもマシ
時間計測によるピボットマンの評価実験
ダブルプレーを狙うときは,0.1秒遅れると併殺獲得成功率が7.12%下がる
などなどです.
感想
ルールがあるものはいつかハックされると誰かが嘯いていましたが,それは本当だなと実感しました.野球における行動の最適化は進んでいて,その進化の過程をまざまざとこの本を読んで感じることができました.一方で,野球に限らず物事が目標に向かって最適化してく過程で,人間の感覚とデータが乖離している場合(例えば,最初の例の勝負強さの話)は,データ至上主義的に論理vs感覚で議論するのではなく,プロ野球は興行であることを忘れてはいけないのではないでしょうか. 幽霊を感じることと同じで,ないんだけどありそうなものに,見えそうで見えないものを見たかのように言ってしまうのが僕ら人間な気がします.このままだと夏から怪談が消えてしまいますよ!